和歌と俳句

寒雀

枯枝に足ふみかへぬ寒雀 鬼城

寒雀身を細うして闘へり 普羅

寒雀猫にとられてまろまろと 禅寺洞

簷の櫂の膠を嘗めに寒雀 泊雲

雪天のくるゝゆとりや寒雀 泊雲

寒雀日暮るゝ檜葉にゐてたちぬ 花蓑

寒雀遠くは飛ばぬ日向かな 草城

けふの糧に幸足る汝や寒雀 久女

寒雀干菜つゝくや尾羽しがみ 泊雲

地へ下りる羽音や庵の寒雀 石鼎

いちはやき旭は輪蔵に寒雀 茅舎

選句しつつ火種なくしぬ寒雀 水巴

茶畑の土にまぎれぬ寒雀 鷹女

掛三味線の袋華やかや寒雀 石鼎

枯芝に沈みて居りぬ寒雀 石鼎

寒雀雪が降るかとみるなべに 石鼎

とび下りて弾みやまずよ寒雀 茅舎

寒雀もんどり打つて飛びにけり 茅舎

日輪に寒雀皆蝟のごとし 茅舎

寒雀手毬のごとく日空より 茅舎

雨戸樋に大きな音や寒雀 立子

起き出でて咳をする子や寒雀 汀女

寒雀風の簇にまじろがず しづの女

寒雀露路の日曜兵一人 楸邨

次子生れぬ舌ふくみ鳴く寒雀 草田男

友病臥わづかの竹に寒雀 草田男

寒雀倣岸に蘆華猖介に しづの女

熱き茶を飲んで用なし寒雀 波郷

ふところに砂糖は買へり寒雀 波郷

上人の滅度の障子寒雀 茅舎

いからねば一日はながし寒雀 楸邨

寒雀老母は軒にしづもりぬ 耕衣

母訪へば母と我が日や寒雀 耕衣

まつくらに暮れてしづかや寒雀 耕衣

文は鉛筆枝で嘴研ぐ寒雀 不死男

寒すずめとび立つひびき硝子戸に 林火

書庫守に午砲明るし寒雀 欣一

寒雀人の夜明けの軽からぬ 三鬼

わがための一日だになし寒雀 楸邨

寒雀胸の地獄に囁き来 楸邨

寒雀人前ばかり何を言ふ 楸邨

寒雀母死なしむること残る 耕衣

天餌足りて胸づくろひの寒雀 草田男

残るもの木賊の青や寒雀 汀女

寒雀汝も砂町に煤けしや 波郷

寒雀顔見知るまで親しみぬ 風生

寒雀今朝は雪よと樋鳴らす 風生

行く水を越ゆ寒雀小声して 耕衣

寒雀よりも懈怠の一病者 波郷

天の国いよいよ遠し寒雀 三鬼

象はあそべり真にあそべる寒雀 楸邨

寒雀心弱き日衾出ず 波郷

夕栄にはじきとばされ寒雀 青畝