和歌と俳句

沢木欣一

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春焦土墓しずもれる坂の下

大学の庭の大根花咲けり

桃の葉の吸い込まれゆく山羊の口

梅雨の土かゞやきて這う蛆一つ

鉄よりも重たく梅雨の雲重なる

孤独の坐筍煮れば青くさき

桐の花大学裏に住みつくか

食の店煌々梅雨の灯撒き散らし

米借りて梅雨の晴れ間を東京へ

更衣米借りに母音もなし

胡瓜喰らい息が涼しと貧親子

墜ちてより舗道息づく蛍かな

蚤取粉日暮れもたらす老の父

短夜の飢えそのまゝに寝てしまう

氷屋の旗に親友還り来よ

西瓜の赤封じこめたるガラス函

日盛りの下駄に嗅ぎより去りし犬

疑えば卓の蟷螂褐色に

からたちの丸き実四高野に続く

秋風に妹のものパンの種

月を帰り指の遊ばす琴の爪

地を蔽う紅葉瞳を上げ空青し

頬杖の卓屋根滑る夜の落葉

秋草に一片墜ちし交い蝶

秋深し泉に己が鼻写る

男ひとり飯焚きながらリンゴの歌

矩形の庭浴みの女月をあび

枯葎瓦礫ふみわけ友の喪へ

柿林檎額白き友なりしか

花電車過ぎ秋冷の皮膚残る

蝸牛の行方は知らず霧の杭

残り音の虫に家なき子とその母

山茶花や手づくりの餅亡弟に

山茶花に遺影の眼鏡はし光る

炬燵買う異国にまざと二十年

母の針襤褸とまがう米袋

落葉に語る獄にて白を加えし髪

共に外套石垣よりも白き道

書庫守に午砲明るし寒雀

仏像の肉感芝生熟れゆけば

炎天の枕木踏むや雉子の声

雉子鳴くや錆びし線路が砂に截れ

雉子鳴いて工夫線路に油垂らす

アカシヤの緑蔭海鳴り線路鳴り

麦熟るる匂い合歓咲く内灘へ

合歓の丘渚を遙か脚下にす

砂の波縁緑乗せ海へ寄す

合歓の花未だし白帆海に咲く

妻に告げん合歓の莟のやわらかさ

青空の雲雀渚に影落し

郭公の遠音雲雀は海に澄む

妻を恋う六月渚雲雀得て

妻恋うや浜ひるがおを褥とし

浜ひるがお砂が捧げる頂に

ひるがおの虹色砂上夢しかと

合歓の影夏蜜柑ころばす砂まみれ

廃船のそこより砂に夏かげろう

廃船や船具と白い貝と散り

廃船に金具海にはかもめ鳥

流れ木無縁走りて挑む波の牙

白昼の海に浮く瓶自愛の念

一日で陽灼け渚の胡桃拾い

遠雷や近きは蝉の音に充てり

戦後三年なめくじ水に溺るゝよ

秋風に車輪を削り石刻み

秋嶺の雄々しき樹々の絶えし嶺

秋の町石の橋梁峡に入る

愛情や秋灯いずれも格子中

桐枯れて七輪の火に立つ男

桐枯れて妻月の出に腕を組む

アセチレン匂う夜祭戦遠かれ

石蕗の花炊煙いつもぬかるみへ

水溜り秋晴れと友の頬映し