霜強し人をなつかしみては失敗す
琴立てて飯炊きませり寒曇
練炭の最終の火や兄妹
抽出に佛光りし雪降るか
寒雲や呆と別れし衆の中
寒雲や別れし友も衆の中
老い朽ちてゆく母羨し玉霰
苔寒く母を忘れてゐたりけり
降る雪に老母の衾うごきけり
星ながら精しく掃きぬ冬の山
しばらくは雀まじへぬ冬の山
冬の雲一箇半箇となりにけり
寒雀老母は軒にしづもりぬ
母訪へば母と我が日や寒雀
玉の如相分れつつ水涸るる
冬の山禅師の墓の並びけり
指先を父祖まろびいづ冬日ざし
母訪ふや上を袖行く枯葎
まつくらに暮れてしづかや寒雀
鴨の声母の衣を貰ひけり
袖袂金剛寒といふべしや
鴨鳴くや母の小鍋の蓋とれば
近松忌橋を渡つて来たりけり
母訪はむ足袋のこはぜのはめ難し
空也忌や膝冷ゆるとも蟹の味