和歌と俳句

永田耕衣

他の垣は垣の外に在り冬の蝶

綿入の裾まで板の塀詰まる

涸れ残る池水の水輪老は恥づ

池を出ることを寒鮒思ひけり

涸れ川の石段を撫づ頬落ちて

寒鮒の死にてぞ臭く匂ひけり

水を釣つて帰る寒鮒釣一人

寒風吹く何か面白き事無きやと

枯蓮の折れ下がる葉の世界かな

友遠し涸池に水滲み出つつ

残る阿呆霜柱みな消え失せて

後ろにも髪抜け落つる山河かな

枯蓮に青の還るや乱れむと

無花果落葉個々定位置に茫然と

無花果の落葉後続落葉無く

枯萩を落ちぬ枯葉や馬の声

土塀かたむくや餅焼く静けさに

命短かし寒鮒に膝濡らさるる

冬の暮何の疲労ぞ鮒を飼ひ

冬蜘蛛の緑や吾が歯な衰へそ

屋根瓦波うつよ牡蠣うまからん

捨て水が地面流るるの味

行く水を越ゆ寒雀小声して

寒鵙の羽裏ゆ三文文士墜つ

髪の中に脱けてある髪夕