他の垣は垣の外に在り冬の蝶
綿入の裾まで板の塀詰まる
涸れ残る池水の水輪老は恥づ
池を出ることを寒鮒思ひけり
涸れ川の石段を撫づ頬落ちて
寒鮒の死にてぞ臭く匂ひけり
水を釣つて帰る寒鮒釣一人
寒風吹く何か面白き事無きやと
枯蓮の折れ下がる葉の世界かな
友遠し涸池に水滲み出つつ
残る阿呆霜柱みな消え失せて
後ろにも髪抜け落つる山河かな
枯蓮に青の還るや乱れむと
無花果落葉個々定位置に茫然と
無花果の落葉後続落葉無く
枯萩を落ちぬ枯葉や馬の声
土塀かたむくや餅焼く静けさに
命短かし寒鮒に膝濡らさるる
冬の暮何の疲労ぞ鮒を飼ひ
冬蜘蛛の緑や吾が歯な衰へそ
屋根瓦波うつよ牡蠣うまからん
捨て水が地面流るる餅の味
行く水を越ゆ寒雀小声して
寒鵙の羽裏ゆ三文文士墜つ
髪の中に脱けてある髪夕霰