寒風や菜に飛ぶ虫の散りぢりに
行年の山へ道あり枯茨
除夜の灯のどこも人住む野山かな
元日や入日に走る宇治の水
元日やお茶の実落ちし夕明り
鶲来て枯木うちはゆ雑煮かな
旅に住みて四方に友ある雑煮かな
茨の芽に日深き山の二月かな
元日やゆくへのしれぬ風の音
雑煮すんで垣根の霜を惜みけり
初夢もなく穿く足袋の裏白し
大風の夜を真白なる破魔矢かな
初鴉白玉椿活ける手の凍え
妹よ二人の朝の初鴉
茶を焙ず誰れも来ぬ春の夕ぐれに
投入に葱こそよけれ春寒き
白日の閑けさ覗く余寒かな
お涅槃や大風鳴りつ素湯の味
茶を焙る我と夜明けし雛かな
空の蒼さ見つつ飯盛る目刺かな
出そびれて月夜に花の句作かな
雀よく干飯をたべて旱かな
蒸し暑き夜を露光る下葉かな
月明に老ゆるひまなし夏の露
朝戸出の腰にしづけき扇かな
屋根瓦ずれ落ちんとして午寐かな
縁にしなふ竹はねかへし冷奴
妹瓜を揉むま独りの月夜かな
いよよ秋の油足さうよ走馬燈
魂祭るものかや刻む音さやか
妻も来よ一つ涼みの露の音
御仏に供へたき鮎や月夕
筍の光放つてむかれたり
新月に刈萱活けて茶漬かな
若竹の高さすぐれたり秋の空
妹見よや銀河と云ふも露の水
どれもどれも寂しうひかる小蕪かな
鉢の梅嗅いで息づく寒夜かな
霊膳の湯気の細さや夜の雪
雪の音の幽けさに独り茶漬かな
選句しつつ火種なくしぬ寒雀
枯草にまじる蓬の初日かな
さざ波は立春の譜をひろげたり
空も星もさみどり月夜春めきぬ
浮葉みえてさざ波ひろき彼岸かな
潅仏の横向いてゐる夕日かな
海苔舟や鷺みな歩く潮の中
桃咲くやあけぼのめきし夕映に
てのひらに落花とまらぬ月夜かな
日と空といづれか溶くる八重桜