和歌と俳句

石田波郷

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横光忌枯草の座を賜りぬ

声かけぬ羽子板市の清水屋に

亡師ひとり老師ひとりや龍の玉

背に触れて妻が通りぬ冬籠

君が喪へ沿ひゆく川や寒の入

笹鳴の忿ふくめる一日あり

病まぬ生より病める生ながし石蕗の花

蘂ごもる息長虻よ冬椿

独活畑も川も失せけり神無月

古妻やとあそびて誕生日

母の亡き今日暁けて石蕗梅もどき

父亡き後けふ母亡しのふところ手

朴落葉母亡き地にからびけり

水仙より母の白髪の白かりき

風呂吹に機嫌の箸ののびにけり

子の部屋のバッハ聴きをり霜の花

水仙花いくたび入院することよ

枯木の眺め代赭色して呼吸難

母亡くて寧き心やのこゑ

梅の枝の冬至の鳩もすぐ去んぬ

冬至けふ息安かれと祈るかな

冬至の日富士もろもともに燃え落つる

冬菊や隣へ慰問聖歌隊

尾長の刻鳩の刻ある枯木かな

ここに酸素湧く泉ありクリスマス

千両や深息といへど短か息

歳晩の白猫庭をよぎりけり

病室に湯気立てにけり除夜の鐘

ききわびて終の栖の除夜の鐘

行く年や枕辺に持す酸素罎

高々と微塵の鳥や寒の入り

呼吸は吐くことが大事や水仙花

寒菊や母のやうなる見舞妻

配膳の粕汁冷えぬ草城忌

寒雀心弱き日衾出ず

石蕗散れり入院の帯纏き立てば

入院車待てばはや来て四十雀

落葉敷いてわが病棟の巨き影

一の酉ベッドの裾を黄葉染め

二の酉や枯木襖のむらさきに

気散じにちりし銀杏や酉の市

看護婦の声に短日はじまりぬ

冬雲の遊び点滴懸架台

枯木星朝のめざめにしたたりぬ

いくたび病みいくたび癒えき実千両

清瀬にも茜富士あり十二月

松の間にまじる黄葉や十二月

枯木星睡れじの曲何々ぞ

冬菊や女患主治医に甘えをり

義士詣せし日の若きわがかなし