密林にこぼるゝ炭も霜を着け 普羅
一文字イチイの下枝霜つよし 普羅
霜置いてイチイが閉す山河哉 普羅
から松のおとす葉もなく霜を置く 普羅
もろ草やはりつくばかり霜に焦げ 普羅
柑園の家禽に霜ふかまりぬ 蛇笏
大霜におどろいてゐる妻のこゑ 草城
霜の石踏まれどほしの朝いたる 楸邨
崖の霜がさりとうごき茂吉病む 楸邨
子を叱るなかれ瓦礫に霜ばかり 楸邨
グノー聴け霜の馬糞を拾ひつつ 波郷
部屋ぬちに声音しづみぬ霜深く 信子
母の顔老いしと思ふ朝の霜 信子
病む母に霜の深きをいひ足しぬ 信子
地震ありぬあたかも霜に足とられ 立子
パン種の生きてふくらむ夜の霜 楸邨
霜白し妻の怒りはしづかなれど 草城
霜の墓抱き起されしとき見たり 波郷
汽罐車の朝の図体霜かぶる 不死男
霜の花ひとたび猫に附きて消ゆ 波郷
霜ふむや空華は永の右横臥 波郷
霜太る夜夜の風ぐせかくれ棲む 立子
日照るとき霜の善意のかがやけり 多佳子
ひとり踏む山墓の径芝の霜 蛇笏
霜つよし忿りをかへす天の壁 蛇笏
老眼鏡掛け初め武き霜の丈 草田男
寝るに手をこまねく霜の声の中 三鬼
木曽谷の日裏日表霜を解かず たかし
観ずれば一些事なれど霜の声 風生
臥す顔にちかぢか崖の霜の牙 多佳子
霜を踏み試歩の鼻緒をくひこます 多佳子
霜白しすでに働く身のこなし 汀女
子の部屋のバッハ聴きをり霜の花 波郷
母亡くて寧き心や霜のこゑ 波郷
三日月をしづめし木より霜の声 爽雨
霜白し己れひそかに制すもの 汀女
アンテナはホテルの九輪霜光る 誓子
霜白し独りの紅茶すぐ冷ゆる 汀女