和歌と俳句

ほろほろとこぼれもぞして葱の霜 花蓑

麦蒔きし翌日強き霜を見る みどり女

幾霜を経て先生のなつかしき 楸邨

園の霜人相離り踏むことなし 楸邨

霜いたし鉄板の音身にひびき 楸邨

休みの日昼まで霜を見てゐたり 耕衣

オリオン座出むと地に霜を降らし 誓子

霜おきぬかさなり伏せる壕の屍に 素逝

農婦の瞳霜の大地のひかりあふれ 多佳子

霜解けず遺影軍帽の庇深く 草田男

霜の威に墓ことごとく蒼ざめぬ 草田男

踏み鳴らす殿階の霜威犇と 楸邨

霜強し人をなつかしみては失敗す 耕衣

三田にして常盤木艶ふ霜の坂 波郷

霜白く蓬髪の夫たくましき 信子

支那蕎麦の手招く灯あり霜の辻 友二

霜の駅よくぞ還りし無疵の手 友二

霜の道馬糞その他をうべなへり 波郷

枕木や大津山科霜ふかみ 波郷

霜きびし父子起きいでて湯を沸かす 林火

昼の霜そくそくと人影痩する 林火

旗立てし草家二軒に霜降りし みどり女

教へ児とかたまり撮る霜真白 草田男

軍国の埠頭の霜に靴鋲鳴る 蛇笏

温室とぢて天禮幽に霜冴ゆる 蛇笏

強霜や朝あかねして駒嶽の嶮 蛇笏

古里は霜のみ白く夜明けたり 青邨

信濃路の桑に霜ふり子とわかる 楸邨

少女等も霜の旋盤に切粉傷 楸邨

霜ふかくして息ふかし疑ふか 楸邨

死とは何ぞ焦土の石に霜美し 楸邨

霜に立つ「一本の葦」と呟きて 楸邨

なつかしき神田も失せて石に霜 楸邨

霜きびし母娘こもれる深廂 信子