和歌と俳句

加藤楸邨

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笹鳴に逢ふさびしさも萱の原

朝時雨鶲を庭にのこし去る

北風に言葉うばはれ麦踏めり

幾霜を経て先生のなつかしき

落葉焚今も廃れず人はかはり

園の霜人相離り踏むことなし

寒鮒が釣れて東京の見ゆる畦

街の水濁りを凍る田に吐きぬ

鉄を鍛つ音あり凍てし畦ひびき

鋪道ありなほ冬ざれの田を列ね

鋪道さへ夕べは凍てて鷺去りぬ

苑枯れて光透りぬ鷺の天

湖の水湖へかへりし冬田打つ

猫柳光り寒鮒のいろさびぬ

四紀層の丘辺の雪を翔ちし鷺

貝塚を犇犇とざす雪明り

雪明り天には月の無明あり

凍てし扉をひらき険しき目にあへり

寒日の歯車ぞ二つ噛みあへり

電気炉の火花むらさきにさす氷柱

物蔭の冬日は誰も忘れゐぬ

猫柳萌えんとしつつ世のさむさ

苞を脱ぐ猫柳より春いたる

猫柳畦の霜よりひかりゐる

旺んなる麦生の青に北風鳴れり