和歌と俳句

加藤楸邨

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冬薔薇瞳によろこべりうつうつと

病む瞳には眩しきものか冬薔薇

病みゐつつ籠の雲雀と春待てり

凍雪の暗き門なりかへりみる

対ひゐて言葉なければを言ふ

日も月もめぐりて梅は古りにける

花の雨鳰はまつたく見ずなりぬ

教へ子等雪解たのしき昼餉どき

白薔薇は雨に耐へをり明日知らず

枝蛙真夜を鳴くなり堪へがたし

妻が名をわがよびにけり枝蛙

枝蛙鳴けよと念ふ夜の看護

野馬追

も近づき 咲きにけり

駒とめて野馬追の武者水を乞ふ

野馬追も少年の日も杳かなる

梅雨の月巣ごもる鷺ぞ鳴きにけり

梅雨の月巣ごもる鷺の真白きを

梅雨の月白鷺羽搏つこと幽か

白鷺の白さが寂し巣ごもれば

波はしる門あり菖蒲葺にけり

初蝉に朝の静けさなほのこる

炎天の起重機をめき下り来たる

サイレンをきき熱風に憩ひける

地下の街夕涼しき花売れり

地下の街夏の夜霧ぞひそみける