和歌と俳句

加藤楸邨

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黒薙の峡は夕霧を沈めたる

をゆき垂水に眉を打たれける

憩ひ寄るその巌すら霧わたり

大蜘蛛の蝉を捕り食めり音もなく

尾瀬の霧蜻蛉が面を打つことあり

星一つかかげし葛ぞひるがへる

鷹の巣は峡の雲霧より高し

鷹の巣は古巣といへど霧巻けり

鷹の巣は見むと仰げど霧とべり

峡深く月おし照れる蓮田あり

霧の月光真青なり蓮真白

籾摺りて文学もあらず腹減ると

かなしめば金色の日を負ひ来

ひとの目に群青の空を翔く

冬日没る金剛力に鵙なけり

鴨なけり枯穂の金がひた眩し

冬日没る何に立ちさわぐ瀬瀬の鴨

雪待月その幽けきを なけり

鷹翔つや青天に羽音ひろごれる

鷹すでに雲を凌げり雲ながる

元日のしづけさに来て触れぬ

あそぶ舟路はありぬ萱の中

翔てるもの鵙なり萱の鳴るさむき

笹鳴や畦は乾きて径となる

寒き日がわたり萱鳴り萱鳴れり