黒薙の峡は夕霧を沈めたる
霧をゆき垂水に眉を打たれける
憩ひ寄るその巌すら霧わたり
大蜘蛛の蝉を捕り食めり音もなく
尾瀬の霧蜻蛉が面を打つことあり
星一つかかげし葛ぞひるがへる
鷹の巣は峡の雲霧より高し
鷹の巣は古巣といへど霧巻けり
鷹の巣は見むと仰げど霧とべり
峡深く月おし照れる蓮田あり
霧の月光真青なり蓮真白
籾摺りて文学もあらず腹減ると
かなしめば鵙金色の日を負ひ来
ひとの目に鵙群青の空を翔く
冬日没る金剛力に鵙なけり
鴨なけり枯穂の金がひた眩し
冬日没る何に立ちさわぐ瀬瀬の鴨
雪待月その幽けきを 鴨なけり
鷹翔つや青天に羽音ひろごれる
鷹すでに雲を凌げり雲ながる
鳰あそぶ舟路はありぬ萱の中
翔てるもの鵙なり萱の鳴るさむき
笹鳴や畦は乾きて径となる
寒き日がわたり萱鳴り萱鳴れり