和歌と俳句

加藤楸邨

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熱風の街を人ゆかず嬰児泣き

目覚むれば朝ひぐらしの蚊帳なびき

天の川露路を夜明の風ながら

虫鳴けりそこらの畳なほあつき

身に沁みて仏体近き闇に立つ

瑠璃光仏閻浮の闇は虫しぐれ

磬架鳴り秋風堂を撼り去る

瑠璃光仏とわが見しはさむき闇なりき

亡びにしものに浮葉の秋いたり

秋草礎石十二ありみな光る

秋蝉のこゑ澄み透り幾山河

啄木鳥のひたにむねうつこの一日

羅漢みな秋日失せゆく目が凄惨

や疑念の闇うちひびき

蜩や疑念ほぐれ夕焼けたり

秋天や異人の饒舌堂を洩れ

稲妻の天ひろく澗を水はしる

秋の雷澎湃と巌湧くごとし

秋の雷澗に蜩のこゑこもる

三等車朝蜩の山がはしる

三等車停りし闇は黍さはぐ

三等車白浪秋の闇に湧き

三等車野の稲妻を浴びてはしる

深夜覚めて梨をむきゐたりひとりごち

鳴けり天仰ぐことおもひ出づ