熱風の街を人ゆかず嬰児泣き
目覚むれば朝ひぐらしの蚊帳なびき
天の川露路を夜明の風ながら
虫鳴けりそこらの畳なほあつき
身に沁みて仏体近き闇に立つ
磬架鳴り秋風堂を撼り去る
瑠璃光仏とわが見しはさむき闇なりき
亡びにしものに浮葉の秋いたり
秋蝉のこゑ澄み透り幾山河
啄木鳥のひたにむねうつこの一日
羅漢みな秋日失せゆく目が凄惨
蜩や疑念の闇うちひびき
蜩や疑念ほぐれ夕焼けたり
秋天や異人の饒舌堂を洩れ
稲妻の天ひろく澗を水はしる
秋の雷澎湃と巌湧くごとし
秋の雷澗に蜩のこゑこもる
三等車朝蜩の山がはしる
三等車停りし闇は黍さはぐ
三等車白浪秋の闇に湧き
三等車野の稲妻を浴びてはしる
深夜覚めて梨をむきゐたりひとりごち
虫鳴けり天仰ぐことおもひ出づ