寒雀露路の日曜兵一人
行軍兵冬日に背きゆくばかり
ものおもへば風邪の子の瞳が我を追ふ
柿食へば誰もひとりの無言あり
短日やわれらおのおのの悔を持ち
オリオンの下凍靴の日が了る
冬帽を脱ぐや蒼茫たる夜空
鳴らしみるつひにひとりの凍靴を
大学のさびしさ冬木のみならず
出征兵犇犇と来り冬木を瞶る
冬帽に手をかけて聴くは機銃音
冬帽をかぶるや深き瞳となりぬ
脚冷えて靴をひそかにうち鳴らす
壕の鴨羽搏つや人を忘れゐず
わが凭りし冬木戦車の音となる
ふりかぶる一本の木の 凩を
冬の霧言触れず来て灯りぬ
戦報絶え日日の冬木と青空のみ
卒然と没日をあびぬ冬木の中
没日消え冬木の高さのみとなる
佇めば寒木のごとし風の中
寒雷やぴりりぴりりと深夜の玻璃
寒雷の下真闇なり犇と瞶る
寒雷や踰えがたきもの厳とあり