飛鳥仏懐中電燈の環のさむさ
しぐれんと腕欠仏真青なり
しぐれきて仏体は木に還りける
冬の蜘蛛眉間をはしり失せにける
黄檗の冬日しんかんたる石廊
堂さむし銅銭くわんと鳴りて落つ
ひたさむし冬の落暉の丘をはしり
紫宸殿何に音ある 凩ぞ
身にしんと玉階をのぼる冬日あり
踏み鳴らす殿階の霜威犇と
殿上に貧書生わが咳ひびけり
ゆるやかに海がとまりぬ暖房車
暖房車黙せばいつも富士があり
プラタナス蹴らるる木膚凍てにける
換気筒のみがまはれり冬日の中
河をへだて人も歩めり冬木の中
冬の霧舟に嬰児のこゑおこる
冬の河われに嗅ぎより犬去れり
犬の面まことにたのし芝枯れて
冬の富士昼さむくして飢いたる
大理石寒夜の霧が来て曇る
だまり食ふひとりの夕餉牡蠣をあまさず
凍石を踏むとき慍あらたなり
ペン執るや落暉の指がさむくなる
石蕗咲けりいつも泥靴と並びたる