枯れしものしらじら光り夜の深さ
雪待月ひそかに梢もえゐたり
雪待月林はもののこゑ透る
枯蓮の一日二日は蝶も来ぬ
枯れゆけばをのれ光りぬ冬木みな
枯れゆけば木木の光の異ならず
冬木照り野の寂寥のあつまりぬ
目路暗し枯れ立つ桑と地の高低
凧ひびき明日なき山河かがやけり
廊暗し炭火を運ぶ僧に逢ふ
吹雪すら木の沈黙をうばふなし
寒の巨木野の昏黒をひとり照り
雲ながれすなはち木木の萌えそめぬ
木のひかり二月の畦は壊えやすし
天深く春立つものの芽を見たり
畦塗りてあたらしき野が息づける
麦そよぎ畦木は枝を鳴らしたる
木木の芽に古びし月がゆき消えぬ
木木霞み遠ひかるもの鷺となりぬ
雪渓の霧まき騰り鳩はやる
雪渓をすなはちくだる鳩見ゆる
峡の空高く真青なり蚊火焚けば
峡の子の真裸蝉を鳴かせ来ぬ
汗の肩精悍なり蝉を示したる
黒部川発破とどろき蚊火暮れぬ