和歌と俳句

加藤楸邨

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この並木稲刈る音をはなれざる

この並木小鳥の影の稀にさす

この並木行きて落穂を拾ひつも

この並木暮れて黍焚く火に逢へり

稲妻のきらめく畦に稲負へり

稲妻の消えて晩稲の穂が騒ぐ

朝の礼交しゆく子よ悴める

ひそかにも鵯鳴きいでし雪あかり

月読の梢をわたる深雪かな

萱刈を了へて遊べる馬をよぶ

末枯に鶏をはしらせ電車来ぬ

隅田川あかるき落穂沈めけり

萱は枯れ白鷺ねむり日はうつつ

淵暗し秋の翡翠来てうつり

いささかの稲架が立ち添ふ塚ありぬ

塚の空あはれに鳴ける囮かな

囮籠しづかなる日が移る

雉子の雛かなしく鶏の巣に孵りぬ

雉子の雛鶏とあさりぬ花のかげ

花降れば花ついばめり雉子の雛

雪雲の天より暗き沼なりき

雪雲の果てには畦木光り立つ

洲の雪の暮れて積みければ雪明り

さびしくて鴨まちをれば鴨のこゑ

畦凍てて洲にかへるなり小田の鴨

鴨下りし洲の遠けれど雪明り