夜の蝉のふと鳴きければ書を膝に
蚊帳にさす月あり遠く時計鳴りぬ
蚊帳とれば蝉たちゆけり昨夜の蝉
炎天の十字路ぞふと人絶えたる
ひとつ虫颱風に鳴けり音の絶えず
四方の田が暮れゆき秋の蝉やみぬ
月出でて舗道の光野を截ちぬ
蘆の影舗道にみだれ月ありき
秋の蝶あそばずなりし萩を刈る
棉を撰る明るき月夜つづきけり
鳥けもの朝はしづかに落葉ふる
梟の憤りし貌ぞ観られゐる
海山の相搏つところ雪の駅
雪崩止四五戸が嶺と闘へる
信号燈雪降り搏てる鴎あり
雪崩止鴎がとまり暮れゆきぬ
除雪車に雪降る海がうごきくる
除雪車に沖の鴎がたち騒ぐ
除雪車は轟き嶺は雪を積む
雪明り北陸線の夜となりぬ
鷹翔り師走の天ぞひかりける
鷹翔り青天雪を降らしける
鷹翔りきびしく畦は凍てにける
落葉降り日が射し落葉また降りぬ
朝刊をとれば落葉の匂ひける
山茶花に月さし遠く風の音