和歌と俳句

加藤楸邨

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あはれなる寄生木さへ芽をかざす

歯朶の湖の風たち歯朶に消ゆ

初雲雀風つよければ草になく

藤垂れて春蚕はねむりさめにけり

ひそかにも桑をはむ蚕よ留守の戸に

観世音奥がにおはす蚕飼かな

遅桜苗代つくり来て憩ふ

水鶏ゐて波の穂白く明けそめぬ

峡くれば鶺鴒ひそむ蕗の中

のぼり鮎すぎてまた来る蕗の雨

遅き月蕗にさしゐる河鹿かな

うつつなく昼のは蚕屋に匐ふ

蚕筵洗ひて浮葉いためけり

夏雲雀あがりし蕗のあらしかな

駅の名を少女は知らず田を植ゑぬ

波ゆけば浮葉にともるかな

堰の水あふれて青き藺をひたす

水の秋はたはた舟の舳にあがり

夜の日覆涼しき風のひそみける

朝刊はつとに来てゐぬ合歓のかげ

野川照り曼珠沙華咲き日はしづか

はげし舟路の浮葉かくいたみ

秋草に疲れきし鵜の身を寄せぬ

うつつなく鵜は秋草の籠にねむり

秋風にまなこけはしく鵜は老いぬ