あはれなる寄生木さへ芽をかざす
歯朶の蝶湖の風たち歯朶に消ゆ
初雲雀風つよければ草になく
藤垂れて春蚕はねむりさめにけり
ひそかにも桑をはむ蚕よ留守の戸に
観世音奥がにおはす蚕飼かな
遅桜苗代つくり来て憩ふ
水鶏ゐて波の穂白く明けそめぬ
峡くれば鶺鴒ひそむ蕗の中
のぼり鮎すぎてまた来る蕗の雨
遅き月蕗にさしゐる河鹿かな
うつつなく昼の蛍は蚕屋に匐ふ
蚕筵洗ひて浮葉いためけり
夏雲雀あがりし蕗のあらしかな
駅の名を少女は知らず田を植ゑぬ
波ゆけば浮葉にともる蛍かな
堰の水あふれて青き藺をひたす
水の秋はたはた舟の舳にあがり
夜の日覆涼しき風のひそみける
朝刊はつとに来てゐぬ合歓のかげ
野川照り曼珠沙華咲き日はしづか
霜はげし舟路の浮葉かくいたみ
秋草に疲れきし鵜の身を寄せぬ
うつつなく鵜は秋草の籠にねむり
秋風にまなこけはしく鵜は老いぬ