和歌と俳句

風邪

風邪三日つくづくと手を見ることあり 楸邨

ものおもへば風邪の子の瞳が我を追ふ 楸邨

風邪の床われに似し子を叱したり 楸邨

やすまざるべからざる風邪なり勤む しづの女

風邪に臥す遠き機銃音とぎれ 多佳子

風邪の子の餅のごとくに頬豊か 蛇笏

息さへや風邪の高熱こもりにほふ 林火

風邪の師の温言胸にたたみ聴く 林火

薪水に風邪妻の手のさやかなる 蛇笏

かへりみて風邪のぬけたるばかりかな 汀女

風邪に寝て仮りのこの家をたのみとす 波津女

風邪の子の客よろこびて襖あく 立子

たちまちにあられ過ぎゆく風邪ごもり 信子

家籠る風邪の教師に電話くる 占魚

放送の落語に笑ひ風邪籠 風生

風邪髪の櫛をきらへり人嫌ふ 多佳子

風邪髪に冷き櫛をあてにけり 多佳子

庭石の耀る日もなくて風邪ごもり 信子

四十二の顔を仰向け風邪の妻  草城

描眉の今は消えつつ風邪深き  草城

水道を出しつつけふも風邪ごこち 波津女

夫かなしひくべからざる風邪をひき 波津女

風邪の身に米の磨ぎ汁いや白し 波津女

ひとごゑのなかのひと日の風邪ごもり 信子

風邪の袂白きをあはす逢はんとて 信子

風邪の妻起きて厨に匙落す 誓子

風邪癒えぬ身の盛装を凝らしたり 誓子

風邪かくすとておろかにも顔つくる 波津女

風邪の妻遅きわが餉に待しをるも 林火

風邪流行る巷より人けふも来る 波津女

わが風邪の癒えよと夫の手を賜ふ 波津女

風邪の眼に解きたる帯がわだかまる 多佳子

風邪の髪解けざるところ解かず巻く 多佳子

書見器に画集燃えもし風邪籠り 爽雨

風邪こもる部屋のガス炉の花の如 爽雨

風邪の妻長びけば起き長びかす 林火

脳味噌をたたらふむなり風邪の神 青畝

十九のわれ風邪鼻せせる師に見えし 林火

風邪の子が留守あづかるといひくれし 汀女