和歌と俳句

囲炉裏 いろり

五つむつ茶の子にならぶ囲炉裏哉 芭蕉

君と我炉に手をかへすしかなかれ 其角

大原女の足投出していろり哉 召波

炉のはたやよべの笑ひがいとまごひ 一茶

飛騨山の入日横たふいろり哉 一茶

湯をいでてわれに血めぐる圍爐裡かな 蛇笏

足袋裏を向け合うて炉の親子かな 亞浪

髭がぬれてゐる炉ほとり 碧梧桐

皆あたれ炉の火がどんと燃ゆるぞよ 亞浪

釣橋の懸け替えの議を囲炉裏かな 喜舟

どの家も新米積みて炉火燃えて 素十

いろいろのものに躓き炉火明り 素十

炉話の僧に向ひてやや嶮し 素十

誰といふことなく当る大炉あり 素十

炉辺たのし酒の薬罐も煤ふかく 爽雨

炉辺たのし夜食のものを朴の葉に 爽雨

釜すこし上げて囲炉裏を焚きくれし 虚子

倦怠の眼に涙する圍爐裡かな 蛇笏

石ころも火になりてある囲炉裡かな 花蓑

爐火いよよ美しければ言もなし たかし

深き火に傾きあたる大爐かな たかし

かりかりと柴の雪たぶ炉ばたかな 蛇笏

大榾にかくれし炉火に手をかざす 普羅

炉の炎杣の白髪も数へらる 普羅

父母は目出度きことに炉火にあり 普羅

激しき心すでに去りたる炉火の前 多佳子

炉辺に聞くこの家の子の夢泣きを 林火

炉火熾んかくして母も老いゆく夜 龍太

炉火紅く中年水のごとく澄む 鷹女

炉火赤し檜山杉山淋しかろ 静塔

炉話は忍ぶ狐によく聞え 静塔

ちちははや炉火あかあかとぢぢばばよ 静塔

雪国の夜のために爐は残りたる 林火