和歌と俳句

松本たかし

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の香や絵巻ひろげて主客こごむ

大木に従ひ立ちて落葉踏む

人歩き幹立並ぶ落葉かな

納屋の屋根山につかへて落葉積む

門前の小さき枯野のよき日和

夢に舞ふ能美しや冬籠

共に病み共に訪はずよ春を待つ

父の世の如金屏と寒牡丹

藁覆に紅玉包む寒牡丹

霜除を出て金屏に寒牡丹

無住寺の掃除されゐる年の暮

年を守り爐を守るのみの身にしあれど

玉霰花無き梅を降り包み

火いよよ美しければ言もなし

深き火に傾きあたる大爐かな

大佛は鎌倉はづれ夜の雪

恵那颪一日すべなき炬燵かな

あたたかき深き空洞の炬燵かな

山を見て夕べまで居る炬燵かな

落葉降る宮の四隅の御柱

蘆の綿芒の尉や里小春

小春日の葭のささやく物語

このわたの桶の乗りゐる父の膳

このわたに唯ながかりし父の膳