和歌と俳句

松本たかし

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濤来り冬雲来るに立つ

冬濤の左右に走せ入るに立つ

足摺の五つ崎埼うち時雨れ

洋中に國極まれり時雨ふる

黒潮の潮路さだかに時雨ふる

時雨雲散り乱りつつみ埼照る

遠海の遠埼晴れて時雨ふる

来るや群嶺駒ケ嶽の余威をかり

新雪を一浴したる駒ケ嶽と会ふ

駒ケ嶽の雪仰ぎ寝覚ノ床を見下ろしぬ

眼を閉ぢて駒ケ嶽の雪照る炬燵かな

木曽谷の日裏日表を解かず

眠りゐる檜山は余木あらしめず

冬潮のせせり上げくる埼の宿

思ひ屈し寒さに屈し今日を居り

盛り上がる紅き炭火にかぶさりぬ

寒き家に住み馴れがほや置炬燵

漬菜食ふ木曽檜箸かぐはしみ

沢冰りしみ立つ檜肌むらさきに

眼つむれば駈けりゐる血や日向ぼこ

ともしき血溶けて流るる日向ぼこ

けふの日の燃え極まりし日向ぼこ

撫で下す顔の荒れゐる日向ぼこ

三つ飼ふ猫の出入りの日脚伸ぶ

避けがたき寒さに坐りつづけをり