和歌と俳句

松本たかし

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

八方に山のしかかる枯野かな

大石の馬をもかくす枯野かな

どん底を木曽川の行く枯野かな

板屏風どうと据ゑたる炉辺かな

借覧す甲子夜話あり榾の宿

枯菊にさし向ひをり炭をひく

柊の花のともしき深みどり

吹き当ててこぼるる砂や枯薄

水仙や古鏡の如く花をかかぐ

揚舟のかげにまはれば千鳥たつ

枯菊に虹が走りぬ蜘蛛の糸

遠き家のまた掛け足しゝ大根かな

玉の如き小春日和を授かりし

鶏頭を目がけ飛びつく焚火かな

枯菊と言ひ捨てんには情あり

鉄の甲冑彳てる暖炉かな

父酔うてしきりに叩く火桶かな

磐石を刳りて磴とす散紅葉

炭斗の侍せるが如き屏風かな

顔見世で逢ふまじき妓と出逢ひけり

枯菊に日こそはなやげまぐれ雪

鶏頭のぐわばとひれ伏す霜の土

神垣の内の別墅や年の暮

かへりみる吾が俳諧や年暮るる

追ひかけて届く鯛あり大晦日