和歌と俳句

足袋

起き出て事しげき身や足袋頭巾 其角

いそがしや足袋売に逢ううつの山 其角

足袋はいて寝る夜ものうき夢見哉 蕪村

扨あかき娘の足袋や都どり 召波

子の母よいく度結ぶ足袋の紐 召波

菊枯て垣に足袋干す日和哉 子規

無精さや蒲団の中で足袋をぬぐ 子規

あちら向き古足袋さして居る妻よ 子規

白足袋にいと薄き紺のゆかりかな 碧梧桐

人形の足袋うち反りてはかれけり 虚子

禰宜達の足袋だぶだぶとはきにけり 鬼城

干足袋を飛せし湖の深さ哉 普羅

病む人の足袋白々とはきにけり 普羅

思ひふと沈みゆく足袋も揺るる影 山頭火

わが足袋やいさゝか古りて好もしき 石鼎

足袋買ふやレッテル剥いでふところへ 石鼎

炭つぐ人の足袋をあはれみ見たりけり 石鼎

足袋干すや晴天の下雪の屋根 石鼎

足袋つぐや醜ともならず教師妻 久女

軒の足袋はづしてあぶりはかせけり 久女

白足袋に褄みだれ踏む畳かな 久女

絨毯に足袋重ねゐて椅子深く 久女

紐足袋の昔おもへば雲がゆく 亞浪

白足袋や大僧正の袈裟の下 喜舟

白足袋や継もなかなか清浄に 喜舟

雪を来しまらうど足袋を焙りけり 喜舟

白足袋のよごれもつかずぬがれけり 風生

尼法師足袋ねむごろに綴りけり 喜舟

足袋ぬちに歩きづかれのほてりかな 草田男

子は唱ふ母の白足袋光るとき

足袋越しに足打ちし水重かりし

足袋はきつめざめの子らに声かくる 悌二郎

足袋穿くを見下し妻を葬に遣る 誓子

百姓の足袋の白さや野辺送り たかし

足袋に継あてて帰省も爆音下 知世子

足袋ぬいでそろへて明日をたのみとす 綾子

今ぬぎし足袋ひやゝかに遠きもの 綾子

片方の足袋のありしは障子ぎは 綾子

足袋をつぐより小説が読みたけれ 波津女

足袋をつがんと日々思ふのみ思ふのみ 波津女

硝子戸の中の幸福足袋の裏 綾子

我が病臥足袋脱ぐ妻の後ろむき 波郷

足袋褪せてゆるし戦後の一病者 波郷

いづくへも行くにはあらず足袋穿き替ふ 波津女

対き合て子が足袋穿けり日矢の中 波郷

老婆掃く己が足袋の上掃き勝ちに 草田男

貧乏の足袋のこはぜが光りけり 双魚