市の灯に寒き海鼠のぬめりかな
蠣苞にうれしき冬のたよりかな
冬蜂の死にどころなく歩きけり
冬蠅をなぶりて飽ける小猫かな
人起てば冬蠅も起つ炉辺かな
三軒家生死もありて冬籠
縁側に俵二俵や冬籠
片隅に小さう寐たり冬座敷
埋火や思ひ出ること皆詩なり
老が身の何もいらざる炬燵かな
猫老いて鼠も捕らず炬燵かな
火燵して老の飯くふうるかかな
老妻の火燵にゑへるあくびかな
美しき蒲団かけたり置火燵
炭取りのひさごより低き机かな
榾の火にあぶりて熱き一壺かな
榾の火に大きな猫のうづくまる
天井に高く燃えあがる榾火かな
こまごまと榾割つて乾す主かな
仁術や小さき火鉢に焚落し
両親に一つづつある湯婆かな
生涯の慌しかりし湯婆かな
風邪ひいて目も鼻もなきくさめかな
大木に日向ぼつこや飯休み