和歌と俳句

村上鬼城

市の灯に寒き海鼠のぬめりかな

蠣苞にうれしき冬のたよりかな

牡蠣舟のともりて満ちぬ淀の川

冬蜂の死にどころなく歩きけり

冬蠅をなぶりて飽ける小猫かな

人起てば冬蠅も起つ炉辺かな

三軒家生死もありて冬籠

縁側に俵二俵や冬籠

片隅に小さう寐たり冬座敷

埋火や思ひ出ること皆詩なり

老が身の何もいらざる炬燵かな

猫老いて鼠も捕らず炬燵かな

火燵して老の飯くふうるかかな

老妻の火燵にゑへるあくびかな

美しき蒲団かけたり置火燵

炭取りのひさごより低き机かな

榾の火にあぶりて熱き一壺かな

榾の火に大きな猫のうづくまる

天井に高く燃えあがる榾火かな

こまごまと榾割つて乾す主かな

仁術や小さき火鉢に焚落し

両親に一つづつある湯婆かな

生涯の慌しかりし湯婆かな

風邪ひいて目も鼻もなきくさめかな

大木に日向ぼつこや飯休み