和歌と俳句

村上鬼城

玄関に大きな鉢の牡丹かな

ぼうたんの蕾に水をかくるなよ

衣更野人鏡を持てりけり

菖蒲かけて雀の這入る庇かな

庵主の菖蒲茣蓙して薄緑

門の内馬もつないで かな

飛騨山の質屋も幟たてにけり

鯉幟眼に仕掛ある西日かな

菖蒲太刀ひくづつて見せ申さばや

酒飲まぬ豪傑もあり柏餅

老ぼれて武士を忘れぬ端午かな

薬玉をうつぼ柱にかけにけり

新茶して五ヶ国の王に居る身かな

寺焼けて門に玉巻く芭蕉かな

大雨に獅子を振りこむかな

万燈を消して侘しきかな

夏籠や仮に綴ぢたる薄表紙

夏籠や月ひそやかに山の上

たかんなに縄切もなき庵かな

焼跡やあかざの中の蔵住ひ

大葉子の広葉食ひ裂く雀かな

芥子の花がくりと散りぬ眼前

道端に縄垣したり罌粟の花