白き息はきつつこちら振返る
オリオンと店の林檎が帰路の栄
冬の雷に醒めし眠を継がんとす
寒ざむと鶏鳴つづき続きけり
ジヤズ寒し汽車の団煙之に和し
短日の群れ買ふ顔のをみな等や
短日や母に告ぐべきこと迫る
寒折も街も後にす家路かな
炭竃や下界の鉄橋鳴りにけり
炭を焼く長き煙の元にあり
隙間風狂言自殺の看護なる
隙間風天丼うまき今のうつつ
木の葉髪文藝ながく欺きぬ
足袋ぬちに歩きづかれのほてりかな
冬すでに路標にまがふ墓一基
地にありて細るままなり槇落葉
どろ靴を落葉の上に踏み入るる
落葉踏むことにも倦きて道に出づ
古下駄は音も立たずよ寒雀
見られゐる壁の影なる寒雀
三日月のひたとありたる嚔かな
冬ざれや石段おりて御堂あり
昃りたるところへ冬日射してくる
ひと枝にうすく真白く返り花
返り花三年教へし書をはさむ