中村草田男
長子
燈台や緑樹は陸へ打歪み
真葛越し脚下浪湧く真白なり
夏草や野島ケ崎は波ばかり
涼風の波打つ如く衣を打つ
照り返す貝殻のみの入江あり
岩垣の間の夏芝真平ら
夏芝やこごみかげんに海女通る
夏芝に建てて居るのも苫屋かな
月見草湾を距てて山灯る
月見草房州露は貧しけれど
項一つ目よりもかなし月見草
果樹の幹厚かりし帰省かな
炎天の城や四壁の窓深し
炎天の城や雀の嘴光る
石崖の片陰沿ひの幾角を
雲の峯海へ並み出て桃色に
翡翠一点三味は嘆かう江の奥処
六つほどの子が泳ぐゆゑ水輪かな
翡翠一点蜑の煙管か一閃す
墓の面を斜めに迅し青落葉
花樗屋根とおなじに暗くなる
蚊帳へくる故郷の町の薄あかり