定家
冬の枇杷 木草のこさぬ 霜の色を はがへぬえだの 花ぞさかふる
且匂う庭や一すね枇杷の花 言水
皆人の匂ひはいはじ枇杷の花 鬼貫
枇杷の花鳥もすさめず日くれたり 蕪村
輪番にさびしき僧やびはの花 召波
初雪の跡さかりなる枇杷のはな 青蘿
枇杷咲いてこそりともせぬ一日かな 鬼城
人住んで売屋敷なり枇杷の花 虚子
牧水
貧しさを 嘆くこころも 年年に 移らふものか 枇杷咲きにけり
牧水
静まらぬ こころ寂しも 枇杷の花 咲き篭りたる 園の真昼に
雨までは淡くも日あれ枇杷の花 水巴
枇杷の花しくしく氷雨下りけり 亞浪
花枇杷に沈む日陽矢の長々と 石鼎
青空に一さきの星や枇杷の花 石鼎
枇杷の花ちりて大地の光りかな 石鼎
煤煙に又も暗さや枇杷の花 みどり女
迢空
ただ ひと木 花ある梢の しづけさよ。煤けてたもつ 枇杷の葉の減り
迢空
風出でて やがて 暮れなむ日のかげりに、花めきてあり。枇杷の花むら
花枇杷に色勝つ鳥の遊びけり 普羅
枇杷の花虻より弱き黄なりけり 喜舟
枇杷の花暁けそむるより憩らはず 波郷
誰かきそうな空からこぼれる枇杷の花 山頭火
とほしろく海高まれり枇杷の花 悌二郎
べゞの仔とくらす小家や枇杷の花 石鼎
枇杷の花をなゝめや窓に英習字 石鼎
富士の雪へむらがる枝や枇杷の花 石鼎
牛擦りて剥げゐる幹の枇杷の花 石鼎
枇杷咲けり人小さく乗る藁ふとん かな女
くちそそぐ花枇杷鬱として匂ひ 多佳子
旅一と日短きことよ枇杷の花 みどり女
枇杷の花とり壊さるゝ土蔵かな 占魚
人影のあとの供華清し枇杷の花 汀女
土の上にある日花枇杷にある日 素逝
枇杷の花日あたることをわすれたる 素逝
枇杷の花夜はそくばくの星かかげ 林火
茂吉
枇杷の花 白く咲きゐる み園にて 物いふことも なくて過ぎにき
茂吉
枇杷の花 冬木のなかに にほへるを この世のものと 今こそは見め
枇杷が咲く金の指輪の指細り 鷹女
忘れゐし花よ真白き枇杷五瓣 多佳子