高浜虚子
掃きしあと落葉を急ぐ大樹かな
手拭にうち払ひつつ夕時雨
清浄の空や一羽の寒鴉
焚火かなし消えんとすれば育てられ
せはしなく暮れ行く老の短き日
爛々と暁の明星浮寝鳥
焚火してくれる情に当りもし
旗のごとなびく冬日をふと見たり
凍蝶の眉高々とあはれなり
焚火そだてながら心は人を追ふ
大枯木己が落葉を慕ひ立つ
枯萩の立ちよれば粗に遠のけば
老はものの何か忙がし短き日
襟巻に深く埋もれ帰去来
右手は勇左手は仁や懐手
白眼に互に日向ぼこりかな
畦一つ飛び越え羽搏つ寒鴉
凍鶴の首を伸して丈高き
人形の前に崩れぬ寒牡丹
何事の頼みなけれど春を待つ