和歌と俳句

高浜虚子

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

掃きしあと落葉を急ぐ大樹かな

手拭にうち払ひつつ夕時雨

清浄の空や一羽の寒鴉

焚火かなし消えんとすれば育てられ

せはしなく暮れ行く老の短き日

爛々と暁の明星浮寝鳥

焚火してくれる情に当りもし

旗のごとなびく冬日をふと見たり

凍蝶の眉高々とあはれなり

焚火そだてながら心は人を追ふ

大枯木己が落葉を慕ひ立つ

枯萩の立ちよれば粗に遠のけば

老はものの何か忙がし短き日

襟巻に深く埋もれ帰去来

右手は勇左手は仁や懐手

白眼に互に日向ぼこりかな

畦一つ飛び越え羽搏つ寒鴉

凍鶴の首を伸して丈高き

人形の前に崩れぬ寒牡丹

何事の頼みなけれど春を待つ