高浜虚子
大仏に袈裟掛にある冬日かな
枯菊を剪らずに日毎あはれなり
苞割れば笑みこぼれたり寒牡丹
冬日濃き所を選みたもとほる
過ぎて行く日を惜しみつつ春を待つ
凍蝶の翅におく霜の重たさよ
煤けたる都鳥とぶ隅田川
胸出して鳩のぼり来る落葉坂
大木の見上ぐるたびに落葉かな
焚火踏み消して闇なる鈴ヶ森
大根を洗ふ手に水従へり
大根を水くしやくしやにして洗ふ
心ひまあれば柊花こぼす
冬の空少し濁りしかと思ふ
枯菊を剪らずに日毎あはれなり
硝子戸におでんの湯気の消えてゆく
戸の隙におでんの湯気の曲り消え
波打てる畳に屏風傾ける
寒き風持ち来る廻舞台かな
年は唯黙々として行くのみぞ
行く年の袖引とめて曰多謝