高浜虚子
麦蒔やいつまで休む老一人
國安く冬ぬくかれと願ふのみ
うかうかと咲い出でしこの帰り花
柴漬にまこと消ぬべき小魚かな
鳰がゐて鳰の海とは昔より
なつかしき京の底冷え覚えつつ
暮れて行く枯木も加茂の御社も
もの皆の枯るる見に来よ百花園
枯草に尚さまざまの姿あり
高々と枯れ了せたる芒かな
冬籠書斎の天地狭からず
湯婆の一温何にたとふべき
一日もおろそかならず古暦
見送りし仕事の山や年の暮
大扉今しまりけり除夜詣
悴める手は憎しみに震へをり
雲乱れ霰忽ち降り来り
石はふる人をさげすみ寒鴉
大寒にまけじと老の起居かな