和歌と俳句

高浜虚子

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鉄板を踏めば叫ぶやの溝

冬麗ら花は無けれど枝垂梅

静さに耐へずして降る落葉かな

鼻の上に落葉をのせて緋鯉浮く

柴漬の悲しき小魚ばかりかな

牛立ちて二三歩あるく短き日

冬日柔か冬木柔か何れぞや

酔ひたはれ握る冷たき老の手よ

冬木中生徒の列の現れ来

マスクして我と汝でありしかな

太陽を礼賛してぞ日向ぼこ

倫敦の濃霧の話日向ぼこ

伊太利の太陽の唄日向ぼこ

雑炊や後生大事といふことを

枯るる庭ものの草子にあるがごと

話のせて車まつしぐら暮の町

かるがると上る目出度し餅の杵

行年や歴史の中に今我あり

日ねもすの風花淋しからざるや

寒雨降りそそげる中の枝垂梅

羽ひらきたるまま流れ寒鴉

鳴くたびに枝踏みゆるる寒鴉