長谷川かな女
湯豆腐や軒まで充つる夜の靄
穴二つ古襟巻に虫の住む
から風の夜を走れり広小路
空風に逆らふ睫毛もてあます
雪びらの星座に吹かれ枝を散る
楮干す石垣に秩父雪颪
山を拝む大鳥居あり冬の町
楮晒す小屋を流れぬ冬の水
梅早し参宮なす児清らかに
早梅に石人芝を歩くなる
びしびしと枯枝折つて天のあり
寒木瓜の紅に祝ひの言の葉を
枇杷咲けり人小さく乗る藁ふとん
羽子を買はんと師走原稿書くなりし
よび出して聞きたる声に冬日さし
山王の冬の入日の高きかな
紀伊闌けし砂岩くづるゝ花石蕗に
虫の卵を育てゝゐたる冬の芝