好忠
霙降り曇れる冬の晴れずのみ尽きせぬものやまろが身の憂き
俊頼
霙には はなだの袂 かへるとも わか遠妻を ふれずはやまじ
有家
人目こそ離れも果てなめ山里に日影も見えず霙降る頃
淋しさの底ぬけてふるみぞれかな 丈草
古池に草履沈みてみぞれ哉 蕪村
みぞれてもしらじらつもる穂垣哉 白雄
ゆで汁のけぶる垣根也みぞれふる 一茶
酒菰の戸口明りやみぞれふる 一茶
けしからぬ月夜となりしみぞれ哉 一茶
飯の湯のうれしくなるやちるみぞれ 一茶
灯の洩る壁やみぞれの降処 一茶
棕櫚の葉のばさりばさりとみぞれけり 子規
牛の背に小坊主細きみぞれ哉 碧梧桐
宝塔に檜の風のみぞれかな 碧梧桐
石蕗の葉に雪片を見る霙かな 虚子
湯屋出づるとき傘のみぞれかな 蛇笏
草の葉の凍てぬがそよぐ霙かな 万太郎
白秋
いちはやく 冬のマントを ひきまはし 銀座いそげば ふる霙かな
啄木
みぞれ降る 石狩の野の汽車に読みし ツルゲエネフの物語かな
樫の木に雀這入る霙かな 鬼城
想ひ見るや我屍にふるみぞれ 石鼎
赤彦
おのれ盛りて飯を食べをり窓の曇りいよよ曇りてみぞるる音す
赤彦
うどん売る声たちまちに遠くなりて我が家の路地に霙ふる音
赤彦
一人して二階を戸ざすたそがれの霙の雨は雪となりをり
みぞるるや西空焼けに白米をよしと見る 青畝
霙るゝや籬の下へ下駄の跡 泊雲
迢空
よろこびて さびしくなれり。庭松に 霙のそそぐ時うつりつつ
迢空
宵あさく 霙あがりし闇のそら なほ雪あると 仰ぎけるかも
したゝかに霙つもりし花壇かな 石鼎
くれがての霙に小さき光りかな 石鼎
霙るゝやなべて下向く葉の面に 石鼎