うばそくが朝菜にきざむ松の葉は山の雪にやうづもれぬらん
泡なりし瀧の白絲冬なれば解くべくもあらずこほり結べり
君待つとねやの板戸をながめつつ寒さも知らぬ冬の夜な夜な
み山には山の山風あらげなりしきの風折りいくそなるらし
山人の露とむすべる草のいほり雪ふみわけてたれかとふべき
しみこほる木の根を床とならしつつ行ふ人ぞ佛ともなる
埋み火の下に憂き身をなげきつつはかなく消えむ事をしぞ思
冬ごもりきぬぬい山を見わたせば絶ゆるひまなく雪はふりつつ
霙降り曇れる冬の晴れずのみ尽きせぬものやまろが身の憂き
こほりするみはらの池の池堤おぼえぬ箱の鏡とぞ見る
風寒み霰降りしき寒き夜になにをあかずと結ぶ氷ぞ
筑波山端山繁山しげけれど降りしく雪はさはらざりけり
冬山の炭焼き衣なれぬとて人をば人のたのむ物かは
雪降ればゆるぎの森の枝避きず夜昼鷺のいるかとぞ見る
こほりする洲崎のみぎはほど遠み寄りこし波も沖におりつつ
へつくりが垣根の雪をよそ人は鶴のにら毛と思ふらんやぞ
荒磯に荒波立ちて荒るる夜に妹が寝肌はなつかしきかな
都にも道ふみまどふ雪なればとふ人あらじ山のべの里
遠つ川吉野の瀧を分け来れば氷ぞ波となりてただよふ
大荒木のおほあらの枝もなびくとて夜半にさびしき冬の夜の風
くゆり満ちよに炭竈もけぶたきに吹きてを止まず冬の山風
年ふれば烏羽の玉すら老いにけり烏の髪に年つもりつつ
鳰鳥の氷の関に閉ぢられて玉藻の宿を離れやしぬらん
鈴鹿川八十瀬の瀧の音せぬはせぜに氷やむすび止めつる
かたせ衣ゆきあえぬつまの程狭みあかで別れし人ぞ恋しき
金葉集・冬
深山木を朝な夕なにこりつめて寒さをこふる小野の炭焼
烏羽の上毛の雪の降りつもりわれ鶏のふぶきかもとぞ
数ふればここら経にける年月のゆき積りけむかたやいづこぞ
暇なみかひなき身さへいそぐかなみ霊の冬とむべもいひけり
詞花集・冬
霊まつる年の終りになりにけり今日にやまたもあはむとすらむ