穂立ちする秋は来にけり下りそぼち早苗つかねし袖も乾なくに
遠山田こぞにこりせず作りをきてもるとするまに妹はたはれぬ
空を飛ぶをとめの衣一日より天の川波たちてきるらし
新古今集
をきて見むと思ひしほどに枯れにけり露よりけなる朝顔の花
新古今集
朝ぼらけ荻のうは葉の露見ればややはだ寒し秋の初風
秋をへて雲居に聞きはわたれども波に朽ちせぬ天の岩橋
よもの海にきつゝなれにしをとめ子が天の羽衣乾しつらむやぞ
我思ふ色には咲ける撫子の露に心をおかるべしやは
蝉の羽のうすらぎ衣かはらねば秋来たりとも思ほえずけり
我守るなかての稲ものぎはおちむらむら穂先出でにけるかも
新勅撰集
ひさかたの岩戸の関もあけなくに夜半に吹きくる秋の初風
いづこべに夜な夜な露は置けとてか稲葉の宿を人のかるらん
たが置ける玉にかあるらん秋の野の草葉をよきずむすぶ白露
わが宿の門田の早稲のひつぢ穂を見るにつけてぞ親は恋しき
武蔵野のをかほの原のむらさきも花咲きがたになりにけらしも
暮ればとくゆきても聞かんふるさとに我をまつ蟲なくと告げたり
木枯の秋の立ちにし昨日より稲葉のそよといはぬ夜ぞなき
そのかみに岩にも種をまけりせば秋田の面をよそに見ましや
わがせなは妻恋ひすらし遠山田守ると告げて日かずへぬれば
新古今集
秋風のよもに吹きくる音羽山なにの草木かのどけかるべき
むつまじき妹背の山と知らねばや初秋霧の立ちへだてつる
人ならば語らふべきを思ふこと薄はそよといふかひぞなき
秋風の草葉を分けて吹きくれど野べには跡も止まらざりけり
こし人の起きて別れし朝よりあき来にけりと著く見てしを
二葉にて根ざしし篠の秋くれば夜中になりてねざめがちなる
あればありとなげしのよそに見し人の秋風吹けばそれぞ恋しき
おほ比禮やお比禮の山も秋くれば遠くも見えず菊の籬は
女郎花にほへる宿し見るなべにはた織る蟲ぞ夜半に鳴くなる