和歌と俳句

畔松むざと倒されて稲のそよぎかな 山頭火

稲は穂に穂を重ねたれ祭太鼓鳴る 山頭火

畦を来る人に旭尊と稲の秋 橙黄子

稲の穂の向き合ひ垂るる小畦かな 風生

吹き降りや稲田へ橋のゆきもどり 蛇笏

夕靄の静かに包む稲の村 虚子

藪蔭を出てあたたかし稲の秋 草城

豊稲に如意が掲ぐる朝日かな 草城

稲晴れて蒼き煙を上ぐる家 草城

建ちてまだ住まぬ一棟稲の秋 草城

案山子かと見れば人なり稲熟るる 草城

波音の稲がよう熟れてゐる 山頭火

熟れて垂れて稲は刈られるばかり 山頭火

お寺の鐘も、よう出来た稲の穂 山頭火

我が思ふ如く人行く稲田かな 汀女

小作争議にかかはりもなく稲となる しづの女

わがこころ稲の穂波にただよへり 青邨

石手寺の築地くづれて稲の波 青邨

しんしんと空あをく左右の稲匂ふ 彷徨子

稲みのり雲遠ざかる渓の音 蛇笏

妻の汽車はや茂福の稲田浜 誓子

百姓の胸もと隠す稲田も見 誓子

汽車は過ぐ稲田が浜となるところ 誓子

なほ稲田ゆく汽車妻が下りし汽車 誓子

學校が真中にあり稲の村 虚子

稲の波案山子も少し動きをり 虚子

熟れ稲の香のそこはかと霧は濃き 亞浪

ひき水の野路よこぎりて稲みのる 蛇笏

稲の黄の日があたるより爛熟す 彷徨子

稲孕みつつあり夜間飛行の灯 三鬼

稲穂波黒き楽器の箱を提げ 静塔

淡々と夕影しみる稲の出穂 蛇笏

ゆふぐれの溝をつたへり稲の香は 静塔

稲の香におぼれてバスのかしぎ来る 秋櫻子

稲の香にむせぶ佛の野に立てり 秋櫻子