松すぎの牝牛をつなぐ蔬菜園
初むかし高原しろき雲をとむ
門前の雲をふむべく年新た
年むかふ門にそびえて駒嶽の嶮
雨ふれば年たつ苑の岩巌目ざむ
かびろくてうづの杣山年迎ふ
八重山をうづむる雪に機はじめ
はつ機の産屋ヶ岬にひびくなり
僧形もまじりてみゆる野火の煙
まな妻のまなこあまえて春の風邪
まさをなる大草籠にねこやなぎ
花冷えや尼僧生活やや派手に
蘭しげる瀧口みえて春の虹
さうび咲く薬草園のきつね雨
薔薇浸けし葉のきはやかに甕の水
蟲たえて奥地は薔薇に陽の昇る
遅月のかげを艫にひく蓮見舟
いばらさく墻にとなりて麦うれぬ
帰省子の気がやさしくて野菜とる
虹たちて草あざやかに蛇いちご
湿原の茱萸あさる童に虹たちぬ
秋涼の雲に鳶啼く大菩薩
やまびこをつれてゆく尾根いわし雲
歎楽にやつれて仰ぐうろこ雲
月にほひ秋雪を刷く嶽となる
兒を抱いて尼うつくしき靈祭
山岨をうつろふ雲に柿熟す
稲みのり雲遠ざかる渓の音
山墓に午後もうるほふ曼珠沙華
雨の日も茎並みそろふ曼珠沙華
山水に竜胆涵り風雨やむ
風吹いてはやき瀬翳の石たたき
月祭る燈のともしくて深山住
大陸にわが書を贈る秋の風
機影ゆく秋闌のうろこ雲
かりくらに鳶ひるがへる焚火かな
地獄絵をたたへて師走祝祭日
うすやみに街角月を得し師走
しもつきや大瀬にうかぶ詣船
櫨をとる子の舟泛ぶ初冬かな
ふりやみて巌になじむたまあられ
凍雪の籬に月の嵐かな
鵲の巣に白嶽の嶮かすむなし
白嶽は普陀落にして春の風
鵲は樹に園啓蟄の光りあり
柳萌え温室の花より淡かりき
十字路の花祭こそ王府の地
白象に稚兒は金色花まつり
春さむき身の日輪にあたたかき
たちまちに夜は冴返る國さかひ