和歌と俳句

猫柳

白秋
猫やなぎ薄紫に光りつつ暮れゆく人はしづかにあゆむ

白秋
猫柳薄紫に光るなり雪つもる朝の河岸のけしきに

白秋
猫柳春の暗示のそことなくをどる河辺を泣きてもとほる

白秋
猫柳ものをおもへば猫の毛をなづるここちによき風も吹く

草の戸にふやけて咲くや猫柳 鬼城

猫柳に塵取をはたき彳める 碧梧桐

流水や泡せきとめて猫柳 泊雲

猫柳風に光りて銀鼠 花蓑

茂吉
猫柳の 花たづさへて 寺に入りゆく童女を見たり わが心和ぐ

一本の杭ぜの飛沫猫柳 泊雲

万葉の古江の春や猫柳 秋櫻子

柵やつんではね出て猫柳 橙黄子

並びたる杭の絶間の猫柳 橙黄子

古簗に水たうたうと猫柳 悌二郎

猫柳高嶺は雪をあらたにす 誓子

猫柳みどりの蕋を吐いて咲く 青邨

川べりに植木棚あり猫柳 花蓑

折りかけし枝もありけり猫柳 花蓑

両岸の土手の遠さや猫柳 石鼎

瀬の魚の未だとばざる猫柳 石鼎

洗ひ牛追ひあぐ岸や猫柳 石鼎

どの家も溝川べりや猫柳 立子

猫柳光りて漁翁現れし 虚子

すつすつと滝の影さす猫柳 花蓑

ゆく水におそき月日や猫柳 淡路女

流木のすれあたり過ぐ猫柳 石鼎

岸に着いて舳ゆれをり猫柳 石鼎

猫柳水と畑との間より 石鼎

猫柳畑地のなかに池一つ 石鼎

猫柳呆けて天の青き見ず 楸邨

猫柳又現はれし漁翁かな 虚子

猫柳ほほけし上にかかれる日 虚子

ねこやなぎ草籠にして畔火ふむ 蛇笏

猫柳ほうけては落つ絨毯に 青邨

子を抱いて老いたる蟹や猫柳 虚子

まさをなる大草籠にねこやなぎ 蛇笏

猫柳日輪にふれ膨らめる 青邨

猫柳日の昃りても光りけり 花蓑

猫柳光るは月の移ればぞ 花蓑

ぎんねずに朱のさばしるねこやなぎ 蛇笏

ねこやなぎ名残りの雨に日の通る 蛇笏

両岸の土手の遠さや猫柳 石鼎

流木のすれあたり過ぐ猫柳 石鼎

猫柳畑地のなかに池一つ 石鼎

あたたかや皮ぬぎ捨てし猫柳 久女

猫柳四五歩離れて暮れてをり 素十

猫柳暮れてゆくなりいつまでも 楸邨

猫柳奈良も果なる築地越し 楸邨

猫柳折られながらに呆けたる 虚子

猫柳薪の上に折られあり 虚子

黄色き日空にかかりぬ猫柳 虚子

枯山をほとばしる瀬のねこやなぎ 蛇笏

わが影す野渡昼ふかきねこやなぎ 蛇笏

激つ瀬は又猫柳光るところ 誓子

猫柳水の激ちに数知れず 誓子

頁繰る二月の季寄せ猫柳 立子

山里の春はやうやく猫柳 虚子

猫柳妻が近づく匂ひあり 楸邨

老友といしくもいへりねこやなぎ 万太郎

うそはうそほんとはほんと猫やなぎ 万太郎

猫柳女の一生野火のごと 鷹女

猫柳酒あっさりと止められし 万太郎