和歌と俳句

原 石鼎

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三月の声きくまでの二月かな

或夕べうすむらさきの二月かな

昇る日に冴え返る色見えにけり

両岸の土手の遠さや猫柳

瀬の魚の未だとばざる猫柳

洗ひ牛追ひあぐ岸や猫柳

春雪や風邪がなほりし人ばかり

西空も暮れてしまうてかな

眼前の灯にあるもののかな

春暁や二重カーテンそのままに

春暁や寝床に思ふ梅の花

暁雀ものがたるごと囀れる

かしこの屋根にここなる屋根に春の鳩

春泥や誰れが落しし梅一枝

春泥にはるばる道の夕日かな

春泥やふとこちむきて人通る

末黒野もいつしか青み蘆の角

潮引けば江の水もひく蘆の角

蘆の芽に舟踏みあそぶ水輪かな

道よけて立てる田馬に鈴を見し

祖先よりうけ居る山に畑を打つ

畑打の草根拾うてすてて居り

紅梅を緋桃をくぐり登臨す

春や園登行自卑の己づから

春の欄間乱るる蝶のすかし彫