和歌と俳句

冴え返る

背戸中はさえかへりけり田螺から 丈草

神鳴や一むら雨のさへかへり 去来

三日月はそるぞ寒はさえかへる 一茶

君行かばわれとどまらば冴返る 子規

野辺送りきのふもけふも冴え返る 子規

冴返る頃を御厭ひなさるべし 漱石

居風呂に風ひく夜や冴返る 漱石

人に死し鶴に生れて冴返る 漱石

鶴の羽や白きが上に冴え返る 碧梧桐

真蒼な木賊の色や冴返る 漱石

冴返る庵に小さき火鉢かな 鬼城

冴返る川上に水なかりけり 鬼城

魚の眼を箸でつつくや冴返る 龍之介

冴返る魚頭捨てたり流し元 龍之介

水餅の水の濁りや冴返る 草城

冴返る野天に石の御百体 花蓑

赤彦
或る日わが庭のくるみに囀りし小雀来らず冴え返りつつ

海遠き国の嶺々冴え返る 石鼎

冴返る中なり灯りそめにけり 万太郎

護国寺の五器総赤や冴返る 石鼎

蝋と供華慈母観音の冴返る 石鼎

昇る日に冴え返る色見えにけり 石鼎

蓋しやる盥の鯉や冴え返る 石鼎

冴返る夜を遊楽の頸飾 蛇笏

冴えかへるそれも覚悟のことなれど 虚子

冴返るキタイスカヤの甃 蛇笏

古都の夜は旅舎冴返り月かくる 蛇笏

冴返るわれらが上や二仏 波郷

冴え返る日々東京の噂きこゆ 林火

冴え返る雲ことごとく息づくか 楸邨

冴え返る茶碗とならび北魏仏 楸邨

冴えかえる崖の谺の高まり来 楸邨

冴えかへるもののひとつに夜の鼻 楸邨

惜しみ置く箸も茶碗も冴えかへる 楸邨

医師探す知らぬ街角冴返る 知世子

春めきし人の起居に冴え返る 虚子

あまぐもはしろし詩文に冴返る 蛇笏

ふと疼く注射のあとや冴え返る 草城

友ら逝きわが生きのびて冴え返る 草城

冴え返る寒さに炬燵又熱く 虚子

瑠璃色にして冴返る御所の空 青畝

冴えかへるたましひにしむ香けむり 蛇笏

衰へしいのちを張れば冴返る 草城

冴返る深山住ひの四方の色 蛇笏

子は留守の照る日曇る日冴え返る 草城

冴返り空高し月遠し星遠し 立子

物置けばすぐ影添ひて冴返る 林火

苦節には十年は足らず冴返る 不死男

冴返る浪音強し由比ヶ浜 青畝