高浜虚子
冴えかへるそれも覚悟のことなれど
春寒もいつまでつづく梅椿
花のごと流るる海苔をすくひ網
花まばら小笹原なる風の梅
紅梅の旧正月の門辺かな
春の波小さき石に一寸躍り
春水をたたけばいたく窪むなり
物の芽にふりそそぐ日をうち仰ぎ
運命は笑ひ待ちをり卒業す
土手の上に顔出し話す草を摘む
春雲は棚曳き機婦は織り止めず
草餅をつまみ江川遙なり
面つつむ津軽をとめや花林檎
黄いろなる真赤なるこの木瓜の雨
細き幹伝ひ流るる木瓜の雨
春暁やまことに玉の玉椿
くもりたる古鏡の如し朧月
昔ここ六浦とよばれ汐干狩
緑竹の下やそぞろに青む草
春草のこの道何かなつかしく
初蝶を夢の如くに見失ふ
立ち上り而して歩む春惜しむ