和歌と俳句

朧月

子規
ふる郷を かなたの空と ながむれば 窓にさし入る おぼろ月かな

大名のしのびありきや朧月 子規

居酒屋の喧嘩押し出す朧月 子規

奈良の町の昔くさしや朧月 子規

だんだらのかつぎに逢ひぬ朧月 子規

三筋程雲たなびきぬ朧月 子規

辻占のもし君ならば朧月 漱石

海に入りて生まれ更らう朧月 虚子

河童身を投げて沈みもやらず朧月 虚子

三条の上で逢ひけり朧月 漱石

片よする琴に落ちけり朧月 漱石

搦手やはね橋下す朧月 漱石

下駄借りて宿屋出づるや朧月 子規

罪もうれし二人にかかる朧月 漱石

木蓮と覚しき花に月朧 漱石

高らかに堰の戸開けぬ朧月 普羅

くもりたる古鏡の如し朧月 虚子

朧三日月吾子の夜髪ぞ潤へる 草田男

旅を来てお弓の国のおぼろ月 風生

おぼろ月奥の雪嶺の夜は見えず 林火