和歌と俳句

前田普羅

三月の雑誌の上の日影かな

反りかへる木の葉鰈や弥生尽

オリヲンの真下春立つ雪の宿

雪五度立春大吉の家にあり

立春の暁の時計鳴りにけり

春浅く松は伐られぬ薮の中

春寒や埃をかぶる庭の雪

懐炉ふたつ残る寒さを歩きけり

春寒し人熊笹の中を行く

雪つけし飛騨の国見ゆ春の夕

春宵の食事終れり観光団

額つりて小家賑し春の宵

高らかに堰の戸開けぬ朧月

おぼろおぼろ水飲みに来し井の辺

蝕めるゆづり葉に春曇りけり

春曇り鳩の下り居る山路かな

春暗し立山の下にうづくまる

行く春や布施の丸山見て過ぐる

徂春や鳥が巣かける駐在所

春光や石にからまる枯茨

瀬頭に打込む春の光かな

一すぢの春の日さしぬ杉の花

大空に春の月あり樹樹の影

風出でて傾きそめぬ春の月

春月や謡をうたふ僧と僧