蚕時や雪解を渉り相まみゆ
旅人の腰かけてゐる飼屋かな
鮎の瀬に漬けし蚕莚流しけり
鮎の瀬は遠音あぐるや蚕支度
雷鳴つて蚕の眠りは始まれり
祭して雪解雫を潜りけり
谷々に乗鞍見えて春祭
春の炉に足裏あぶるや杣が妻
種俵あげたる飛騨の径かな
鷹と鳶闘ひ落ちぬ濃山吹
山吹を折りかへしつつ耕せり
ルリイチゲ春の夕をとざし居り
なだれたる祇の径にも瑠璃一華
深山藤風雨の夜明け遅々として
藤さげて大洞山のあらし哉
ふぢ白し尾越の声の遠ざかる
藤浪に雨かぜの夜匂ひけり
砧石の落花の藤をうち払ふ
風澄むや落花にほそる深山ふぢ
紺青の乗鞍の上に囀れり
さへづりや二筋はしる平湯径
雷とほし頭を垂るる八重桜