前田普羅
駅頭の寝雪に蜆こぼしけり
行く春や大浪立てる山の池
春逝くやしきりに枯るる竹林
神々の椿こぼるる能登の春
浅春や暈日かかれる槇の枝
春くるや急ぎなだるる礪波山
一点の雲のそそげる余寒かな
鰯干す宮も藁屋も温かし
立春や一抹の雪能登にあり
尼御前のかげの杓子菜花盛り
春光や礁あらはに海揺るる
ごうごうと一とき東風の渡る湖
切株の松脂ひかる春の宵
くこ垣や海女が仮寝の維ぎ舟
花さして春菜流るる熊木川
みなかみに人住み春水濁りけり
接骨木の芽の揃ひたる朧かな
三たびきて此の春苔に足を置く
熊笹に鰯曇りのつづきけり
流れ去る椿の臍の白きかな
大風に花のかくるる椿かな
淋しさや春山を描き雲を添ふ