和歌と俳句

春惜しむ

春惜む心に遠き夜の雲 亞浪

無住寺の扉に耳や春惜む 虚子

手をとめて春を惜しめりタイピスト 草城

春惜しむおんすがたこそとこしなへ 秋櫻子

うまや路の春惜しみぬる門辺かな 不器男

春惜しむ人にまじりし一人かな かな女

春惜む布団の上の寝起かな 久女

見ぬ人と春惜しみあふ便りかな 淡路女

庭に立ち春を惜める夫婦かな 風生

摘みとりし草の名しらず春惜む 風生

畦を行き門に佇み春惜む 風生

丹の欄にさへづる鳥も惜春譜 久女

春惜しむ納蘇利の面は青丹さび 久女

事務多忙頭を上げて春惜む 虚子

春惜む瀧の音どもきこえけり 万太郎

くれそめて櫻としりし春惜む 万太郎

湯の花となる土にゐて春惜しむ 烏頭子

春惜しむ水にをさなき浮葉かな 汀女

吹く風に心乱れて春惜しむ たかし

春惜む人よ静かに木かげかな 立子

この雨はつのるなるべし春惜む たかし

惜春の遠き展墓に妹と在り 月二郎

人も旅人われも旅人春惜しむ 青邨

惜春の情芭蕉の像のした 青邨

立ち上り而して歩む春惜しむ 虚子

この山の春を惜みぬ細き道 

羈旅送り惜春の情と階降り来 友二

元禄の昔男と春惜む 虚子

春惜しむベンチがあれば腰おろし 虚子

春惜しむ湖凪ぎて富士涵る 蛇笏

パンにバタたつぷりつけて春惜む 万太郎

春惜しむ語らぬ山の大いなる 占魚

縁談を措き来し旅の春惜しむ 波郷

春惜むいのち惜むに異らず 虚子

脇息に手を置き春を惜みけり 虚子

春惜しむここも短かき坂の町 誓子

春惜しむ心はやがて子の上に 立子