和歌と俳句

星野立子

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春惜む人よ静かに木かげかな

右窓に又も遅日の日がまはる

青麦にそうて歩けばなつかしき

露の句碑の下に憩へる遍路かな

春風や上げし線香の燃えてゐる

絣解ゆきつ戻りつ春の風

はきかへて足袋新しき遍路かな

お四国の地図壁にあり堂の縁

京に来て小さき溝川春の水

旅さきのここに落つく春の水

落椿みな熊笹に沈むなり

ゆびさされ京都見下ろすかな

虎杖を背中に負ひて猶も登る

山桜根本中堂へまがり角

青麦に琵琶湖見渡すはね釣瓶

春風や消えなんとするおろうそく

杣道のけはしく続く山つつじ

叡山の花のさかりの暮春かな

風呂敷を解いて出すもの春の旅

行く春や原はすかひに通ひみち

傘さして暮春の町を宵の雨

いく度も秋篠寺の春しぐれ

静かさや犬が出てきし藤の花

たびたびの春の時雨も馴れにけり

落椿あかき鼻緒の庭草履