沈丁や夜を行きたりし薬とり
沈丁花あちこちにあり夕まぐれ
噴水や東風の強さにたちなほり
驛遅日遠の方にも汽車が居り
花散るやひそかにそだつ雪の下
花曇り昨日の船の今日は無き
花の雨濡れて鴉のかけりけり
枯蓮の折るるは折れて春の水
泣いてゆく向ふに母や春の風
たんぽぽや日はいつまでも大空に
囀りをやめて居る間の枝渡り
あたたかき昼餉やすみや蝌蚪の水
かなたまで蝌蚪のおどろき及びけり
白木蓮の花今日ひらく苞の落つ
白木蓮の散るべく風にさかれへる
家ごとの縁側仕事遅日かな
故里にことづてものや暮の春
行春や別れし船のなほ沖に
行春や波止場草なる黄たんぽぽ
春惜しむ水にをさなき浮葉かな
芹洗ふ流れのなかが暖かし
芹摘みし籠のかたちを忘れたる
麦踏の遠目のうちに未だあり
母の頬にはるけく動く山火かな
草萌ゆるほとり灯入りぬアーク燈